DX(3)
皆様こんにちは、株式会社コアブリッジの柳です。
今号はDX(Digital Transformation)の最終回です。
前回、独立行政法人情報処理推進機構IPAによるDXへの取組み状況に関する調査結果『DX白書2023』<https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/dx-2023.html>から、現在の日本のDXへの取り組みの傾向として9点を取り上げました。
その9点を「組織・戦略」「人材」「制度・仕組み」の観点で分類し、考察したのちに、私見を述べてみます。
組織・戦略
- DXで何をやればよいのかわからず態度を決められない
- 危機感は持っているが戦略的とはいえず場当たり的な対応がみられる
- リスクをとってチャレンジしても評価されない
DXに限らず、日本企業(組織)の短所が凝縮されています。
具体的には
・目的(DXの”X”)と手段(DXの”D”)を混同している
・最初から正解を求めてしまうがために動けない
・新しいことは失敗が当たり前なのにそれを許容できない
です。
組織の文化、仕事の取り組み方、の両面において極めて残念な点で、競争力の低さという結果として如実に現れてしまっています。
人材
- 権限を持つ上層部にITの素養がある人が少ない
- DX人材を外に求めるよりも社員を育成している
人材の育成に関しては、悪くない傾向であると私は捉えています。
・ITを外部に丸投げしたうえ、軽視してきたツケが大きい
・それに気づき育成を始めた(リスキリングの意味もあるでしょう)
・DXとはビジネス変革であり外に依存するのではなく内でやるべきだ
出だしの遅れと、効果が出るまで時間がかかるというのは大きな欠点ですが、しっかりと取り組もうとしている印象を受けます。
ただし、DXは特定の人がやるものでその人数を増やしているだけ、ということにならないことを切に願います。
制度・仕組み
- デジタル化やIT化による生産性向上はできている
- DXやIT化を推進しても価値創出や顧客貢献等の評価や効果測定を行っていない
- 新製品やサービスの創出に活かされていない
- アジャイル(Agile)的なアプローチができていない
デジタル化(IT化)はできたが、その後につなげることができていない、突き詰めると、データ活用ができていない、と解釈できます。
加えて、その次の新しい価値の創出で手が止まっているということなのでしょう。換言すれば、正解がないものを導き出していくということが不得手である、ということです。
総論
Digital(IT)に特化せずに、日本の特徴(短所になっている)が出ています。
- 目的と手段を混同している
- 計画をしっかりと固め、その通りに遂行し、精度の高いものを求める
- 失敗を許さない
- 責任は重く、賞賛は小さい
- 上記が積み重なり、新しいものを創出できない
先述していますが、組織の文化、仕事の取り組み方、の両面で変革が必要です。
文化の刷新は一朝一夕に叶うものではありませんが、取り組み方については一つの解がまがりなりにもあります。
DXの本質は「変化する(Transformation)」ことで、その目的は「価値」を生み出すこと、”Digital”はそのための手段です。
ただ、多くの人は変化を嫌い現状維持に固執するものです。そして、新しいことは失敗なしには先に進めません。
それを踏まえて、
・小規模、短期間で試す
・初めてのことは失敗は当たり前、二回は行う
・小さな価値を生み出してメリットを感じてもらう
・それを反復して改良する、あるいは範囲を広げていく
が実際的な取り組み方です。
調査項目にもありますが、まさに『アジャイル(Agile)』です。日本がまだまだ苦手としている手法です。
Agile的な取り組み
調査結果に現れていた「DXで何をするのかわからない」はその通り、最初から全ての絵を描けるわけがありません。
失敗も含めて反復的に実行し(試行錯誤とも呼びますね)ようやくわかるものです。
DXに限らず、新しいことを実現するのに同調者を増やすのは大変なことですが、有効な手段があります。
それは、机上の空論ではなく実際に具現化されたものを目の前に出してメリットを感じてもらうこと(前項の三番目に挙げたこと)です。
これを『MVP(Minimum Viable Product:最小限の実行可能なプロダクト)』と呼びます。
2007年の初代iPhoneがまさにそれで、コピペやアプリ追加すらできない不完全な電話機でしたが、その後どうなったかは周知の通りです。
まとめ
繰り返しとなり恐縮ですが、重要なのは「変化」です。
「デジタルで」というのも、例えば「今さら連絡にFaxは使わんでしょ」と身近なITで始めて、後でもっとよいものに変えればよく、最初から最新技術が必須ということではありません。
変化への適応とは、正解のないものを導き出す行為であり、最初からうまくいくわけがなく、小さな試行錯誤を繰り返す必要があり、それを許容・推奨する文化や仕組みが必要です。
DXとは、トランスフォーメーション(変化・適応)を目的に、その手段としてDigital(IT)が有効ということであり、DXという言葉に浮き足立つのでなく、今一度「何をしようとしているのか」を再確認すること、小さく始め、段階的に実行していくことが有効です。
そして何よりも「人」そのものが変わる必要があるのです。
※本文中の情報、状況、数値等は執筆時点のものです